2009年10月29日木曜日

重い副作用の発生率は約0.0007%

「新型」ワクチン、重い副作用が4件
 http://www.yomidr.yomiuri.co.jp/page.jsp?id=16029

計10件「頻度高いと言えない」
 厚生労働省は28日、医療従事者に対する新型インフルエンザワクチンの接種で、ショック症状(アナフィラキシー)や肝機能障害などの重い副作用(副反応)が、新たに4件報告されたと発表した。
 19日の接種開始以来、重い副作用の報告は、これで計10件。調査中の1件を除き、いずれの症状もほぼ回復しているという。同省は「現段階で副作用頻度が高いとは言えない」としている。
 10件のうち、新たな4件を含む6件は、推定約85万人への接種の中で発生した。重い副作用の発生率は約0.0007%となった。季節性ワクチンの約0.0003%より高いが、同省が医療機関に積極的な報告を求めているため、報告率が高くなっている可能性もある。押谷仁・東北大教授(ウイルス学)は「季節性ワクチンに比べ著しく副反応が強いということはなさそうだ。妊婦や小児などに接種した場合にどうなるか、監視する必要がある」と話している。

妊婦さんに保存剤無添加のワクチン

新型インフルエンザのワクチン接種について、記事とは直接関連がありませんが、第3回(11月6日)ワクチン出荷から保存剤無添加のワクチンが流通する予定で、妊婦さんは11月中旬まで待つことで接種機会が得られると厚労省から通達が出ています。

http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/10/dl/info1022-01.pdf

ワクチン接種前倒しのものは保存剤入り。
接種を考えている妊婦さんは、どちらがよいかかかりつけの産科医と相談をするようにとする自治体が目に付きます。

 厚生労働省はかかりつけ医(とくに産科)を通して妊婦さんに周知をとしていますが、なかなか伝わらないような気がするので、もし知り合いに妊婦さんがいらしたら、教えてさしあげてください。

2009年10月28日水曜日

ワクチン接種で「抗体価の上昇」という意味

16日専門委員会に出席の委員の方や厚生労働省の医系技官等から、政府三役への逆襲が始まっているようです(つまり、健康な成人以外でも、基礎疾患をもつ人や13歳以上の人は、すでに季節性で基礎免疫をもっていると"推察"されるから全員接種1回でいいじゃないか、という話を流している)。

以下は、16日の決定に関して、上昌広・東大医科研特任准教授の話(ロハスメディカルの記事から抜粋)。
 http://lohasmedical.jp/news/2009/10/18001220.php?page=1
 

こういう場合に行われるのは非劣性試験と言って、標準治療が存在する時に、効果は劣る代わりに別のメリットがあるような治療法をテストし、劣る効果と得られるメリットとを比較検討するためのもの。今回の場合、標準治療は2回打ち、効果は抗体価の上昇、メリットは接種人数が増えること、になる。

 そもそも抗体価の上昇が指標として適当なのかという問題、被験者数が少ないために出てきたデータが実際に取りうる値がメチャクチャ広いという問題にはあえて目をつぶって、抗体価は効果の指標として正しく、78%と88%が真であると見なしたとする。それでもこの試験から導き出せるのは、2回打ちに比べて1回打ちは抗体価の上昇が10ポイントほど低いけれど、それを容認してでも接種人数を増やすべきか、ということになる。そして、これは科学的な判断というよりも、国民が容認するのか否かという議論をしないといけない話だ。また通常は、試験結果が出てから議論するのではなくて、最初にこの程度の低下なら許容しようかというのを議論したうえで、試験に入る流れになる。こんなのは学生でも半年ぐらい勉強すれば分かること。

 たかが10ポイントと思うかもしれないが、先ほども述べたように被験者数の問題で幅のブレる可能性が相当あるということと、健康人を対象に理想的な環境下でやった治験の結果は、実際の臨床現場に持ってくると大抵出方が全然違う。そんなのは臨床試験をやったことのある人間なら皆知っていることのはずだ。今回、2回打ちに比べて抗体価の低下があるということは、1回打ちにした時に免疫のつかないという人が続出する可能性を覚悟しないといけない話だ。

ちなみに欧州の判断もワクチンの種類は違えど参考になります。

新型インフルエンザワクチンの接種回数:欧州の判断
東北大学大学院感染制御・検査診断学分野講師 厚生労働大臣政策室アドバイザー 森兼啓太氏(by MRIC)
 2009年10月16日、厚労省で行なわれた専門家による会議において、新型インフルエンザワクチンの接種回数に関する議論が行なわれた。2回接種を前提としていた本ワクチンに関して、国立病院機構の4施設の医療従事者を対象に実施した本ワクチン接種後の抗体価調査から、1回の接種でもそれなりの抗体価上昇がみられることが判明した。流行が拡大している今、限られたワクチンをできるだけ多くの優先順位の人々に早めに接種すべく、健常成人(大部分の医療従事者がこれに含まれる)の接種回数を2回から1回に減らすという合意に至ったのは妥当な線であろう。

 ところが16日の会議では、この抗体価の上昇は季節性インフルエンザであるAソ連型(新型インフルエンザと同じH1N1亜型)への曝露によるものであろう、それなら妊婦や基礎疾患を有する人、19歳以下の成人もある程度の免疫を持っているはず、と推論に推論を重ね、妊婦や基礎疾患を有する人、13歳以上20歳未満の人をすべて1回接種でよいとする方向性を打ち出してしまった。

 これらの人々におけるワクチンへの免疫応答に関するデータはない。しかもこれらの集団への接種はまだ差し迫っておらず、ここで一刻を争って回数を決定しなければならない状況にはない。こういった施策決定方法に強い疑問を持った足立信也務官が19日急遽会議を開き、筆者も含めた数名からさらに意見聴取を行ない、健常成人以外の接種回数に関する変更(2回接種から1回接種)を白紙に戻したことはすでに報じられた通りである(10月20日の拙稿:MRIC臨時vol.301などを参照)。

 さて、その翌日には中国から新型インフルエンザワクチン接種後の抗体価上昇に関するデータが発表され、12歳から17歳までの550人を対象としたスタディでHI抗体価40以上を全体の97%に認めたという。そしてこのデータが発表された3日後の欧州医薬品局(EMEA)のワクチンに関するUpdateが注目されていた。
この委員会では、欧州で認可されている3つの新型インフルエンザワクチン、Celvapan、Focetria、Pandemrix(製造者はそれぞれバクスター、ノバルティス、グラクソ・スミスクライン)の3つについて検討した。これらのワクチンは鳥インフルエンザA(H5N1)で得られたデータをもとに認可されているため、ほとんどすべての人が免疫を持たないと考え、2回接種が基本であった。
今回の委員会では3社とも健常成人における接種後の抗体価上昇に関するデータを提出した。その結果、PandemrixとFocetriaについては、1回の接種で十分な抗体価の上昇がみられた。例えばPandemrixでは40名の健常成人(接種前に抗体価が基準値以下のもの)の全員が1回接種でHI抗体価40以上1]、Focetriaでは50名の健常成人(接種前に抗体価が基準値以下のもの)のうち49名(98%)が1回接種でHI抗体価40以上という反応をみている2]。にもかかわらず、委員会の勧告としては健常成人に対して2回接種のスケジュールを維持することとされた。勧告は、「One
dose of 0.5 ml at an elected date. A second dose of vaccine should preferably be
given.」 すなわち、「1回接種、2回めの接種が望ましい」という表現になっている。さらに、18~60歳では「1回接種で十分かもしれない」と付記された。

 この会議でどのような議論がなされたかに関する詳細は不明だが、臨床試験に基づいた慎重な判断を行っていること、わからないことはわからないと正直に述べているところが、まさに科学的な判断と言える。日本における10月16日の会議での結論や、その後のコミュニケーションの拙速かつ非科学性とは対照的である(政治的に出された結論であればまだ理解できるが)。コミュニケーションという点では、EMEAの判断を報じる大手メディアの記事は筆者の知る限り存在しない。この情報は国民にとって極めて重要な情報なのだが。
1]http://www.emea.europa.eu/pdfs/human/pandemicinfluenza/Pandemrix_PI_23oct09.pdf
2]http://www.emea.europa.eu/pdfs/human/pandemicinfluenza/Focetria_PI_23oct09.pdf